【書評】ケーキの切れない非行少年たち【現実が歪んで見える少年たち】

なるほどね

なるほどね

「【書評】ケーキの切れない非行少年たち【現実が歪んで見える少年たち】」のアイキャッチ画像

児童精神科医である筆者は、少年院で刑務に従事している少年たちに出逢います。

刑務所を「楽しい」「面白い」と感じている少年たちも多く、著者である宮口さんはあることに気がつきます。

「彼らはやる気がないわけでも、不真面目なわけでもない。」

「現実を正しく認知できていないのではないか・・・?」

本書では彼らにどのような特徴があり、どのように更生させていくか。

そして同じような少年少女を作らないよう、どのように支援・教育をしていくべきなのかを学ぶことができます。


※本書では非行「少年」と表記されています。

これは男の子を意味しているわけではなく、

矯正施設では女子も少年と呼ぶことから、全て少年で統一されております。

もくじ

1.ケーキの切れない非行少年たち

まずこの表紙の通りなのですが、少年院で刑務している少年はケーキを三等分する事も困難です。

もちろん全ての少年がそうとは限りませんし、

知的障害や小学校低学年の子どもにも当てはまる可能性があります。

問題は彼らが凶悪犯罪を犯している中学生・高校生という年齢の少年たちということです。

2.世の中全てのことが歪んで見えている

ケーキを切れない彼らに、図を模写させる課題を出しても、大概はうまく描くことができません。

後述しますが、彼らは認知機能が弱く、世の中のものを歪んで捉えている可能性が高いです。


刑務官に「反省しなさい」と言われたところで、

  • 相手がどんな気持ちだったのか
  • 何を反省すればいいのか
  • ここはどんなところなのか
  • そもそもこの人は何を言っているのか

これらがわからないと、反省のしようがありません。


「あなたの言っていることがわかりません」と言ったら余計に怒られることくらい、彼らも知っています。

だから表面上は「反省してます」ということができます。


何を反省すればいいのかわからない彼らは、

すぐに同じ行動を繰り返します。

そこで彼らは「不真面目だ」「やる気がない」と言ったレッテルを貼られ続けます。

3.認知機能の弱さ

ケーキを切れない非行少年に共通する特徴として、

『認知機能が低い』というものがあります。

これは「見る」「聞く」力が弱いと言い換えることができます。


見る、聞くという認知機能が弱いと、このような生きにくさを感じます。

  • 相手の表情から感情を上手に読み取れない
  • 相手がぶつぶつ言っている独り言が、自分の悪口に聞こえる

先程の図で表された通り、我々と同じ現実を見ても、

彼らの脳内では違う図に見えている可能性があります。

我々が読めもしないフランス語で書かれた文章を読み、

感想を言わされ、「この人は的外れなことを言っている」と言われるようなものでしょう。


そして『認知機能が低い』には「想像する力が弱い」事も含まれます。

想像する力が弱いと時間の管理が苦手になります。

  • 嫌な勉強を頑張ってテストでいい点数を取る
  • この千円を我慢したら、来月一万円もらえる
  • 将来のためにブログをコツコツ書く

このような未来を想像することが苦手のため、

目標に向かって努力することができません。

そしていっときの快楽のため、犯罪に手を染めてしまう事も考えられます。

「イライラしたから殴った」

「誰でもよかった」

このようなコメントを残す犯罪者は、典型的に未来を想像することができていなかったのだと思われます。

4.知的障害の定義の変化

1950年代の定義では、IQ85未満が知的障害とされていました。


しかし現代ではその定義が変わっています。

  • 全体の16%という数が知的障害者になってしまう
  • 支援をする現場の手が回らない

このような様々な理由から、今では「IQ70未満」が知的障害と定義されています。


ただし時代が変わっても、事実が変わるわけではありません。


以前は「 IQ85未満の人は社会的支援が必要ですよ」と定義されていました。

今では普通の人と定義されている彼らが、以前のように支援を受けることは少し難しくなりつつあります。


彼らは知的障害者と健常者の間に属する「境界知能」の持ち主です。

一度「普通の人」と定義され、社会に紛れ込んでしまうと、

軽度知的障害者や境界知能の彼らは、周囲の人に気づかれにくくもなってしまいます。


そして「普通の人」と思い込んでいる彼らは、

困っていてもなかなか自ら支援を求めることはしません。

支援が必要な人が要求度の高い仕事を求められ、

失敗すると非難の対象になったりします。

おそらく刑務所の中にいる受刑者の中には、そんな境界知能を持った人の割合が高いのではないでしょうか。

5.そのほかの気になるキーワード

  • 褒める教育だけでは問題は解決しない
  • 自分は優しいという殺人少年
  • 融通の利かなさが被害感につながる
  • 気付かれない子どもたち
  • ではどうすれば?1日5分で日本を変える

6.感想

まず表紙がショッキングすぎます。

以前からタイトルは知っており、なんとなく気にはなっていましたが、

この表紙になった瞬間に一目惚れして購入しました。


筆者である宮口さんも私も、「加害者も被害者だから悪くないよ」ということが言いたいのではありません。

彼らが起こした罪は罪です。

被害者に与えた傷が治るわけではありません。


しかし彼らはそれまでの人生が生きにくく、

世の中を正しく捉えられないまま、「不良」「不真面目」などというレッテルを貼られ続けた可能性もあります。

本書には、これから犯罪者の可能性のある人を掬い上げるヒントが、たくさん詰まっています。


また、表紙を手がけた鈴木マサカズさんによる、

『「子供を殺してください」という親たち』という漫画も非常に面白いです。

私はもう二度と読みたくありませんが、人生で一度読んでおいてよかったなと思える内容でした。