東野圭吾著、ガリレオシリーズの第三弾、容疑者Xの献身をレビューします。
本書は個人的にシリーズ最高傑作とも思っております。
映画化もされているので、本作を読んだことのない方も、
「映画版でストーリーは知っている」という方も多いのではないでしょうか。
もくじ
1.ストーリー
天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。
だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。
ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。
Amazon 容疑者Xの献身より
2.主人公は数学教師・ダルマの石神
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ガリレオシリーズの主人公は、物理学者の湯川学です。
しかし今作品に関しては、数学教師の石神が主人公と言えるのではないでしょうか。
湯川の行動は最低限にしか表現されておらず、
石神と靖子の描写を中心に描かれています。
(刑事と犯人視点で物事が進み、湯川学が少ししか登場しないのは、ガリレオシリーズの特徴でもあります)
彼は天才的な頭脳を持ちながら、
それ以外のことにはほとんど興味を持ちません。
物語の中の天才というのは、大概周りがバカになって、
天才風に引き立つということが多いです。
けれども彼はちゃんと天才として描かれています。
- 湯川にもチンプンカンプンな数学の難問を数時間で解く
- 作中の警察を手玉に取り、その筋はしっかりと通っている
- 天才の湯川学が、友人の草薙以上に親密な態度を取る
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周りの目を気にしない天才肌の彼ですが、
花岡親子に関しては異常なまでに献身的な姿を見せます。
殺人を犯した花岡靖子・美里親子のため、
たくさんのアリバイ工作や死体処理の手伝いをします。
ただのお隣さんなだけである花岡靖子はそれを不思議に思っています。
読者である私も不思議に思います。
果たして彼らが夫婦だったとして、
ここまでのことをしてくれる人間がどれほどいるでしょうか?
3.互いに認め合う湯川と石神
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石神は数学の天才です。
そしてガリレオこと湯川学も天才物理学者です。
大学は同じ帝都大学の出身の彼らです。
けれども彼らは学部も違えば、
学生時代から特別親しい友人というわけではありませんでした。
問題に対するアプローチも違います。
湯川は観察・実験を好みます。
しかし石神は理論を積み上げ、シミュレーションを重んじるタイプです。
博識な湯川に対し、石神は数学にしか興味がありません。
割と正反対な彼らですが、
天才という点だけは共通しています。
天才には天才にしかわからない苦悩があるのでしょうか?
友人の草薙にすら皮肉交えでコミュニケーションを取ることが多い湯川ですが、
石神に対しては自分の素直な感情をぶつけているように思います。
一人事件の真相を知ってしまった湯川は、
石神の仕掛けた罠の意味を理解し、
それを誰にも話すことなく一人で苦悩します。
そして靖子に対する石神の思いを汲み、
「刑事草薙」に対しては事件の真相を話しませんでした。
(「友人草薙」に対しては話しています)
皮肉屋の湯川とコミュ障の石神。
不器用で、作中で交わした言葉数も決して多くはありません。
けれども彼らの友情、互いの尊敬は痛いほど伝わってきます。
仕掛けられた罠だけでなく、
湯川が石神に対して思う友情や葛藤も、本作の魅力の一つです。
僕がこの問題を解いても、誰も幸せになれない。
映画版「容疑者Xの献身」湯川学
4.映画との違い
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映画しか見たことのない方へ、
原作との違いを軽く説明します。
- 映画では湯川の相方は内海、原作では草薙
- 映画では石神の趣味は登山、原作では柔道
- 映画では後半の美里は空気、原作では美里がある行動を起こす
- 劇中で起こす石神の叫び、映画と原作では湯川の立ち位置が違う
映画を見たのは少し前なので詳細は思い出せませんが、
ざっくりというとこんな感じでしょうか。
どちらも素晴らしい作品なので、
どちらが良い悪いではなく、こんな違いがあるなーくらいにまとめてみました。
5.まとめ
なぜ石神が靖子に対してここまで献身的に行動してくれるのか、
そして石神の仕掛けた罠の真相も、
物語の最終版にならないとわかりません。
これだけ見事な罠を張られると、
逆に罠にハマる気持ちよさを感じてしまいます。
他のガリレオシリーズには科学的アイテムや知識が必要になることが多いですが、
本書は小難しい科学の知識は出てきません。
万人がライトに楽しめるようにまとまっていて、
初のガリレオ体験としてもおすすめできます。
前述した通り、本作は単品で楽しむことはできます。
けれどもガリレオ一作目の「探偵ガリレオ」を読んでおくと、
湯川と刑事草薙の出会いを知ることができ、物語に少し奥行きが生まれます。
全五話からなる短編集になっているので、
本書を読む前にサクッと読める、こちらもオススメの一冊です。