【流浪の月】人間は本音を話さない

なるほどね

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今更ながら流浪の月を読んでみました。

第17回本屋大賞を受賞し、映画化もされています。

評価は10/10点なのですが、感じたことをつらつら書かせていただきます。

もくじ

◯あらすじ

最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままにーー。だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、私は再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切な人さえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたいーー。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。本屋大賞受賞作。

Amazonより

・不幸で孤独な主人公、家内更紗

個性的な家族のもとに生まれた個性的な主人公の更紗

夕飯にアイスを食べ、小学生なのに父親のためにカクテルを作る。

いわゆる普通の価値観では動いていない両親に育てられた更紗もまた、少し普通ではない価値観で生きていた。

学校や近所からは変わり者扱いをされていたが、それでも大好きな両親がいれば何も苦しくはなかった

しかし父の死、母の蒸発をきっかけに更紗は孤独になってしまう。

息苦しさを感じていた更紗は近所のロリコン大学生、文の家へ転がり込む。

・ロリコンの大学生、佐伯文

佐伯文は対照的に一般的な家庭で育った。

東北の地で生まれ、両親と兄と暮らしていた。

少し他の家と違うところは、母親の少し過度な干渉かもしれない。

育児書と暮らしのルールブックをこよなく愛し、文を教科書通り規則正しく育てた。

母の教え通り、文は教科書通りの規則正しい生活をしている。

決まった時間に起きて決まった時間に掃除をして決まった時間に勉強をする。

食生活も判を押したように同じものを決まった分量食べる。

ハムエッグには塩。

ラーメン屋に行ったこともなければピザを出前で食べたこともない。

しかし掟破りばかりする更紗の影響で、寝坊もするし、ハムエッグにケチャップをかけるようにもなった

・いずれバレる生活

居場所がなくて文のところに転がり込んだ更紗。

自らの意思で文と一緒にいたのだが、世間はそのように見てくれない

日々報道される誘拐のニュースを気にもしていない二人だったが、あるときにふとしたきっかけでそれがバレてしまう。

更紗は居場所がなくなり、文は幼女誘拐犯のレッテルを貼られてしまう。

しかもそれがネットに流れてしまい、消えない過去として否が応にも切り離せない過去になってしまう。

◯感想

・二転三転四転五転するストーリー

幸せな生活から誘拐がバレてドン底に落ち、そこから少しアフターストーリーがあって終わりなのかと思っていた。

しかし誘拐がバレるなんて序章程度だった。

本編は大人になった二人の再会がメインストーリー。

メインストーリーも起承転結あり、高い位置で緊張感と息苦しさが持続していてよかった。

・不器用な登場人物たち

更紗は文を家族のように思っている。

けれども世間はそう見てくれない

ロリコンの誘拐犯としか見られない。

その誤解を必死に解こうとする更紗だが、上手いこと周りには伝わらない。

上手いこと自分の気持ちを言語化できない

言語化が特別下手なわけではないだろうが、別段上手くもない。

ただでさえストックホルム症候群のレッテルを貼られているのに、それを言いまかすほどの口達者な人間ではない。

周りが理解してくれないことに苦しむ更紗

そして文も目的のために更紗と一緒に暮らしたのだが、やり方には疑問。

わざわざそんなやり方じゃなくても…と読み進めながら思っており、彼らの生き方の不器用さにヤキモキした。

・登場する母親が大体クソ

作中の母親が大体みんなポンコツなのには笑った。

更紗の母親は更紗を見捨てて蒸発するし、文の母親は過度に教育ママすぎる。

他にも何人か母親は出てくるが、大概何かしら欠陥のある人物像になっている。

作者は母親に対して何か嫌な思い出もあるのか?と、あらぬ妄想をしてしまうくらい模範的な母親は存在しない。

私の母は世界一の母だから、世界一の母に感謝しなくちゃいけないなと思った。

・誰も何も知らないくせに知った口を聞くんじゃない

更紗の状況を知ると、周りの人間はどうしてもトラウマがあるのだとレッテルを貼ってしまう

でも更紗は文と暮らせて幸せだった。

そしてネット上では文の個人情報やありもしない憶測が飛び交っている。

更紗に居場所と幸せを提供しただけなのに!

理不尽なインターネットの皆さん!

何も知らないくせに!

ありもしない妄想を吐き捨てるんじゃない!

そしてそれに踊らされるんじゃない!

・みんな何もかも知らなくちゃいけないのか?

まあでも何かしら我々は踊らされてしまっている。

芸能ニュースや職場での噂話、果ては自分の家族に対しても思い込みで決めつけていたりする。

家族ならとにかく、自分の遠い出来事まで全てを知らなくてはいけないのだろうか?

もちろん知ろうとする努力は必要。

そして思い込みによる誹謗中傷は本当に品のない行為だと思う。

でも全てを知るのって疲れるし、知らなきゃいけない通りもないのかなと思う。

・人は皆全てを語り切らない

それでも人は全てを語らないし、語っている内容も伝えたいこととはズレていることが多いと思う。

自分自身は正確に自分の気持ちが伝わるように努力を続けなくてはいけないと思う。

でも他人にはそれを強要するべきでは無いし、そもそも言葉が全てだと疑っていた方が、案外人間関係は楽なのかもしれない。