【書評】コンビニ人間【あっち側とこっち側の境目ってどこ】

なるほどね

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第155回(2016年)芥川受賞作品、「コンビニ人間」をレビューします。

社会で普通にいることについて考えさせられます。

もくじ

1.あらすじ

1-1.普通じゃない主人公

コンビニで働く主人公、36歳独身彼氏なしの古倉恵子は、

愛情や執着といった感情がありません。


幼少の頃に公園で鳥が死んでいるのをみて、

「食べよう」と母に言います。

絶句している母に「足りない?」と追い討ちをかけます。


小学生の時には暴れている男子を黙らせるため、

スコップで頭をぶん殴ります。

「止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました。」

クレイジーです。

そんな彼女は生きづらさを感じ、自分の言動や行動を外に出すことなく、

周りの人に合わせるようになります。

1-2.コンビニで産声を上げる主人公

大学生の頃、主人公は自宅近くのコンビニでバイトを始めます。

コンビニではマニュアルが用意されています。

マニュアル通りにしていれば「普通の人」になれる主人公は、そこで喜びを感じ、

大学卒業後もアルバイト生活を送り続けます。

2.感想

2-1.五感を刺激される文章

この物語では五感を刺激してきます。

主人公の感じる音や色彩、肌触りなんかも読みながらその場にいるくらい、丁寧に描かれています。


物語的には読者を没入させるためなのだと思います。

そしてそれ以上に、

周りに合わせながら生きている主人公が、

周りに合わせるために観察力が鋭くなっていることを、暗に表しているのだと感じました。

2-2.普通ってなに?

小説全体から、「普通ってなに?」ということを我々に問いかけてきます。

確かにスコップで頭をぶん殴ったり、

鳥を食べようという主人公は普通じゃないのかもしれません。


けれども「不快」「普通じゃないから」以外で、

主人公の行動を否定できない自分もいました。


主人公の友達は、泣きながら死んだ鳥さんのお墓を作ります。

お墓に添えるため、花をむしり取りながら。


私はこの理由を主人公に詰められたら、合理的に説明できる自信がありません。

  • なんで食べちゃダメなの?
  • なんで埋めなきゃダメなの?
  • 燃えるゴミじゃダメなの?
  • なんで死んだだけなのに泣くの?静かになっていいじゃん。
  • なんで花をむしるの?鳥は死んでるから花見えないよ?
  • 花は殺していいの?

こんな詰め寄られ方をしたら、私が主人公をスコップでぶん殴ってしまいそうです。

2-3.主人公と我々の境目ってなに?

結婚もせずにコンビニバイトを続ける主人公を、周りは心配してくれます。

結婚しないの?

今まで彼氏いたことある?

そ、そうなんだ・・・

私ってセクシャルなこと理解あるから、いつでも相談してね?

主人公は独りで生活しコンビニバイトを謳歌しています。

それを勝手に悩んでいると判断し、自分の物差しでしか悩みを理解できません。

主人公は人の気持ちがわかりませんが、

それは周りもそうなのではないでしょうか?

本当のところは、他人の気持ちなんてわかりません。

お世辞を言われても、それが相手の本心なのかわかりませんし、

相手が喜ぶ「と思われる」プレゼントをあげることなんてしょっちゅうです。


もちろん「普通」の人は主人公より空気が読めています。

けれども「あちら側」と「こちら側」の境目って一体どこなのでしょうか?


実際に死んだ鳥を焼いて食べたら「あちら側」でしょう。

それでは焼いて食べようと思っただけの人は「こちら側」?

花をむしる友達を「お花が可哀想だよ」とビンタしたら「こちら側」?

仮に境目があったとして、

ギリギリ「こちら側」の人と、ギリギリ「あちら側」の人って、

そこまで大きな違いがあるのでしょうか?

ギリギリ「あちら側」の人と私って、そんなに大きな違いがあるのでしょうか?


物語を読み進めていくうち、

そんな今まで「普通」だと思っていた自分の立ち位置が揺らいだ気がしました。

3.まとめ

普通の人間は普通じゃない人間を認めません。

何かカテゴリ分けをしないと落ち着かないのです。

主人公は「普通じゃない人たちの一人」ではなく、

「古倉恵子」と言う一人の人間なのに。


そんな普通と普通じゃない人を考えながら、

ぜひこの一冊を読んでいただきたいです。


最後になりますが、母親が主人公に言った、

「早く治るといいね。」

これはちょっとキツかったです。