【書評】イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019【期待を背負った天才の苦悩】

なるほどね

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野球は詳しくなくても、「イチローって誰?」という人は少ないのではないでしょうか。

  • 84年間破られることのなかった、アメリカ野球リーグのシーズン安打記録を更新(262本安打)。
  • 日米通算4367安打という世界記録を達成。
  • WBCという野球大会で日本を世界一に導く勝ち越し安打を放つ。

本書は語り尽くせないほどの記録・エピソードを持つイチローの努力と考え方、

そして苦悩を追ったインタビュー集です。

ボリュームのある一冊ですが、ぜひ読んでいただきたいです。

もくじ

1.こんな人にオススメ

  • これからコツコツと何かを積み上げたい人
  • 家族、同僚、部下など、他人の期待を背負っている人
  • イチローが好きな人

2.首位打者も200本安打も簡単に手に入れられるものではない

当たり前なんです。

当たり前なのですが、イチローを見ているとそんなことも忘れてしまいました。


「パリーグの首位打者はイチローとして、ホームラン王は誰になると思う?」

という会話を友達としたことを覚えています。


2004年にメジャー記録である262安打を打った翌年の2005年、

206安打を打ったイチローを見て、

「今年は調子が悪いな」

と思いました。

(その年のシーズン安打記録の2位です)


そんな周囲の勝手な期待を背負っているイチローですが、

「天才だから」という軽い一言で済ませられるのを嫌います。

以前どこかでこんな名言を残していました。

努力をせずに何かできる人を「天才」というなら、僕はそうじゃない。

努力した結果、何かができるようになる人のことを「天才」というのなら、僕はそうだと思う。

か、か、か、かっこいい…


偉大な記録をいくつも残したイチローが言うのだからかっこいいです。

「=僕は誰よりも努力をしていると言う自負がある」

と言うことです。

プロの中でもこんなメンタリティを持っている人は、本当にひと握りだけだと思います。


そして本書では日頃の努力について、こんなことを言っておりました。

ただ、自分の限界を少しだけ超えることを重ねてきた。

自分なりの歩みを進めていくということを、ただただ重ねてきた。

そうやって歳を積み重ねてきただけの自信があったから、

心が折れようとも泰然としていられた、ということなのかもしれません。

相手に勝つのではなく、己の心に負けない。

言葉にすると簡単ですが、これを実行できる人が世の中にどれくらいいるのでしょうか?

3.期待されることの苦悩、プレッシャー

2004年、当時メジャーリーグのシーズン記録だったジョージ・シスラー氏の257本安打に迫っていたイチロー。

残り19試合で27安打を放たなくてはいけなかったある日、

家での様子が違っていたイチローに、妻である弓子さんが励ましの言葉を伝えました。

「打てなかったら、それはそれでしょうがないじゃない」


私がチームメイトだとしても似たような言葉を投げかけていたと思います。

この言葉は本人を思ってのことでしょうし、決して的外れな配慮ではなかったはずです。


しかしながらプレッシャーというのは、結局本人しか分かり得ないものがあります。

イチローはこう答えました。

「そんなことは打てなかったときに、あとから考えることであって、今、そんな気持ちになってしまったら、絶対に打てない」

弓子さんはのちに「迂闊だった」と言っていますし、

イチローもしまったと思ったと振り返っています。

あくまで前提はお互いの信頼関係があるからこそのやりとりです。


けれども考え方は本当にプロフェッショナルです。

言ってしまえば「負けても仕方ないという気持ちで戦いに出ない」ということでしょう。

しかも自分が負けて終わりというでなく、日本やアメリカで注目されている記録です。

私のような全く関係ない人間でも新記録に期待をしていました。

イチローなら当たり前に更新できると思っていました。


記録が更新された後、イチローはこう語っています。

「きっと、ヒットの数が243本ならよくやったと言われるのに、256本だったら、ダメだったということになったんでしょうね……そう考えると怖くなります」

こんなに人から期待をされて、それを当たり前だと思われているプレッシャーは想像ができません。

最近の私の悩みである、

「この記事わかりにくい文章になってないかな…」

なんて本当にちっぽけなものです。

4.失敗への向き合い方

凡打を失敗と捉えるのはあまりにイチローに失礼です。

※凡打=ヒットを打てなかったこと


以前別のインタビューで、

「どうしてこれが凡打になったのかが見えれば、それを直せばいいから答えがはっきりする」

と言っていました。

その時点で常人にはない感覚です。

普通の人は成功体験によって次の成功への感覚を掴むのではないでしょうか。

ご本人は嫌がるでしょうが、やはりこの感覚は「天才」です。


それでもやはり凡打は悔しいものです。

日米通算4000本安打を打った時のインタビューで、こうも言っておりました。

もし誇れることがあるとすれば、4000本のヒットを打つには、

僕の数字で言うと、8000回以上、悔しい想いをしてきているんですよね。

そういうことと常に自分なりに向き合ってきたという事実はあるので、

(誇れることがあるなら)そこじゃないかと思います。

何かに成功をした方を見るとき、周りはその成功体験にスポットライトを当てます。

けれども成功したという事実は、その人のほんの一部分でしかありません。

悔しさを噛み締め、逃げずに立ち向かうことをコツコツ積み上げてきた結果が、

日米通算4367安打という世界記録を引き寄せることができたのではないでしょうか。

5.まとめ

一つのものを極め続けた人が言う言葉というのは、

どれも本質的で、とても野球の枠に収まり切るようなものではありません。

私のような凡人がイチローを真似すると、あまりの意識の高さにすぐ参ってしまうと思います。


けれどもこのような究極に意識高い系みたいな人を見て、

「この人は極端かもしれないけど、いざというときにこの考え方を思い出そう」

と考えるのはとてもいいことだと思います。

誰にとっても「名実共に世界一になった人の考え方」に触れられる本書は非常にオススメです。


そして本書は非常にボリュームがあります。

イチローや野球のファンでない方には、少々とっつきにくいと思います。

そんな方は、本書の細かい野球のスコアやバッティング理論を、完全にすっ飛ばして読むことをお勧めします。

イチローのインタビューを受けているセリフ部分だけを読むだけでも、多くの気づきが得られるはずです。


最後に引退したイチローが残した言葉があります。

同じ言葉でも、誰が言っているかによって意味が変わってきます。

だから、まず言葉が相手に響くような自分を作らなければならないと考えています。

いや、まだ人間力を高めていくんかい。