【書評】告白【世界は自分中心で見えている】

なるほどね

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2010年に発売された、湊かなえさんによる「告白」。

告白によって始まる、復讐劇を描いたサスペンスものです。

中島哲也さんによって映画化された作品でもあります。

もくじ

1.あらすじ

「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」

我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。

語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、

次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。

衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラー。

『告白』Amazon公式ページ

2.好きな点

端的にいうと、この小説は本当に面白いです。

一晩で貪るように読了したのは、

中学生の時に読んだハリーポッター以来かもしれません。

この面白さが伝わるかわかりませんが、

とりあえず何が面白かったのかを語っていきます。

①一章目から物語の確信

大概のクライムサスペンスものは、序盤は退屈です。

物語の下地を作ってから事件が起こるので、まあ仕方ない点ではあります。


ただ、本書は違います。

1章目から主人公森口の娘が殺されます。

正確にいうと、殺されたという告白から物語は進みます。

犯人もわかった状態です。


推理ものではないので、サスペンスという括りにして良いのかはわかりませんが、

序盤から犯人のわかる物語はそう多くありません。

ここは「古畑任三郎」の面白さと通づるものがあるのかもしれません。


序盤から物語の山場を迎え、

それがダレることなく終わりを迎えるのは本当にすごいです。

愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたからです。

p.29 森口悠子

②同じ事件を別人物の視点で見る

この小説は、基本は一人称視点で進みます。

各章で語り手が変わり、それぞれの視点から同じ事件をどう捉えているのかがわかります。

  1. 森口悠子、娘を生徒に殺された中学教師
  2. 北原美月、森口の生徒、クラス委員長
  3. 犯人Bの母親、モンペ
  4. 犯人B、森口の生徒、ポンコツ
  5. 犯人A、森口の生徒、天才
  6. あの人からの電話

いきなり事件の概要も犯人もわかった状態で進みますが、

うまく緊張感が保たれたまま物語は展開します。

特に3章と4章は親と子の視点です。

見ている景色は似ています。


けれども人が違えば見えている景色は違うもの。

視点を変えての独白になるため、

同じ事件を語っているのに、ちょっとずつ事実の認識がずれています。


もちろん私もそうですが、人は自分の都合の良いような事実を見ているのだなと、

改めて考えさせられました。


特に顕著だったのが、森口がBの家に家庭訪問に訪れた件です。

Bの母親目線では森口はBに誘導尋問をしていますが、

別の視点では、全く誘導っぽいことは行っていません。

ただ静かにBに事実を聞いているだけです。

それがモンペの母親目線では、

自分の息子を問い詰めているように感じられていたのです。

もともと私は森口が嫌いでした。

多感な時期の息子の担任が、シングルマザーだなんてとんでもない、

と校長宛に手紙を書いたこともあります。

p.126 Bの母親

③森口の余白

森口は感情をあまり出しません。

娘が死んでしまった無念や怒りは伝わってきますが、

自分の中で整理はついています。


なので声を荒げたり、感情的になる部分はほとんど見られません。

ただただ事実を淡々と述べるにとどまります。


その淡々とした雰囲気が不気味です。

森口のバックボーンも感情も書いてあるので読み取れるのですが、

今、彼女が何を考えているのか、何を目指しているのかはほとんどよくわかりません。

その感情を剥き出しにしない雰囲気が、

彼女の全てを見れない感じがして怖いです。


私は物語の登場人物の全てを知るのは野暮だと思っています。

わからない部分はわからないままにしておくことにより、

物語に奥行きが出るような気がしています。


この小説では、正に主人公に奥行きがあることにより、

娘を殺された恨みが薄っぺらく感じることがありません。

では、みんなが自分の意志を持って私の話を聞いてくれているものとして、続けたいと思います。

ここからは二人の犯人を、A・Bと呼ぶことにしましょう。

p.40 森口悠子

3.好きではなかった点

一気読みするくらい面白い本でしたが、

多少物語から気持ちが逸れる点もありました。

ほとんど言いがかりになりますが、それが以下の点です。

①1〜5章は同じ話の繰り返し

物語の性質上仕方のないことではありますが、

基本的には事件が起きてから、同じ事象を繰り返し見させられます。


もちろん視点が変われば事件の姿も違い、見えている時系列も変わるため、

限りなく飽きにくい作りにはなっています。


これが小説内のざっくりとした時系列です。

  1. 日常
  2. 事件発生
  3. 真相究明
  4. 告白
  5. その後
  6. 終幕

例えば森口が語るのは、1の日常から4の告白までです。

しかしBの母親は、詳しいことは4の告白と5のその後しか分かりません。


時系列、わかっている情報、それを受けた気持ちも章ごとに語り手が異なるため全て違います。

同じ事件を見ているのに、全く違う姿を見せてくれます。


けれども少しでも「このシーンはさっきと同じ展開だな」と思ってしまうと、

ほんの少しだけ物語から気持ちが離れてしまいます。

②中学生はもっとエイズの知識はあると思う

物語の中にHIVに感染した人が出てきます。

中学生たちはエイズを過度に恐れます。


ちょっと疑問なのですが、中学生ってエイズが怖いのでしょうか?

「エイズは怖いけど、セックスしなきゃうつらない」という知識はちゃんとあると思います。

あとHIVの感染確率は低いことも、私は中学生の頃から知っていました。


作中でエイズの話題になるたび、過度にビビっている中学生徒の描写が入ります。

そこが少し物語から気持ちが逸れました。


もちろん冷静さを失えば、知識よりも感情が優先されてしまうので、

そういうことが表現されていただけかもしれませんが。

4.まとめ

オススメ度☆10/10【面白すぎることが最大の欠点】

先にも述べた通り、

一晩で貪るように読破してしまいました。

本書は章分けされているから読むのに区切りがつきますが、

章の無い物語だったら、私は一生読み続けていると思います。


物語は森口に同情するように作られていますが、

森口自身も都合の悪い事実とちゃんと向き合っているでしょうか?


私には分かりません。


そして私自身も、自分に都合の良いように現実を見ているのです。

人はみな、孤独じゃない、ロクでもない世の中だけど、幸せになろうよ。

信じよう、ネバーギブアップ!

p.82 クラスメイト